前回に引き続き、オリエント工業のショールームに、いち購入予定者として見学と称する潜入取材を試みた際の様子を綴っていく。テーマはあくまで、素材を取り扱う「匠」である。
1.素材の匠 - 気持ちよさの決め手はここ!(前稿) 2.デザイン - 好みの女性のタイプは?自分の内面と対峙する(前稿) 3.機能 - ここまで進化した!注目機能の数々 4.オリエント工業のラブドールの創業秘話と逸話
3.機能 - ここまで進化した!注目機能の数々
その造形や素材が改良を続けられ、観賞用として十分なものであっても、ラブドールの本業(?)は、「実用性」を前提としたポージングにある。オリエント工業のドールは、ラブドールとしての使い勝手の向上を目指した「デュアルフレーム」構造によって、従来製品の優れた柔軟性と耐久性はそのままで、より少ない力で各部位を動かすことが可能になっている。筆者がショールームで感嘆したのは、ドールの股関節の可動範囲である。前後左右はもちろんのこと、膝関節が横に回転することで内股状態のポーズや、いわゆる「まんぐり返し」のポーズですら可能なのである。
ほかにも、オプションではあるが指の関節までを組み込むことができる。これによって指先の繊細な表現が可能となり、鑑賞、撮影でより多彩な「指先の表情」を楽しむことができるのだ。当然、いろいろなモノを握らせることも。。
そして表情そのものであるといえる、目線。ドールの眼球が可動式になっていることで、人間のそれと寸分違わぬくらいの、本当に様々な目線による感情を表現することができる。(例えば流し目や、見上げるような表情、拒絶、果ては白目を剥くようなシチュエーションまで。。)
この、「ポージングに関しての機能の有無」が「ラブドール選びで失敗しない3つ目の重要ポイント」となる。
4.オリエント工業のラブドールの創業秘話と逸話
オリエント工業の創業は1977年と、ラブドール業界では最古参である。創業者社長の土屋氏は、東京都台東区の上野と浅草でアダルトショップを経営していた。当時店舗で取り扱っていたダッチワイフが、空気漏れが多く実用性が低かったことから、自らその改良を手掛けたことでオリエント工業の起業に至ったとのことである。
その際、障害者の性行為の実際について、性欲を解消できず風俗でも相手にされないという現状を知ることになる。その解決のための製品改良と起業であったとのことだ。このあたり、前回のTENGA社長と共通した意気込みであり、やはり単なるエロ追求ではなく、世の役に立ちたいという思いがその原動力になっていることが興味深い。
初期の製品はラテックス製であり、これは水中に重合体の微粒子が安定分散した乳濁液のことである。自然界に存在する乳状の樹液や、界面活性剤で乳化させたモノマー(高分子を構成する単量体)を重合することによって得られる液体を指し、空気に触れると凝固する、やわらかいゴムのような特性をもっている。ラテックスはデリケートな素材であり、裂けやすいなどメンテナンスも大変だったことから、従来の商品をソフトビニール(フィギュアのいわゆるソフビ。ある程度の柔らかさはあるが、折り曲げることはできない)仕様に改めた新製品を発売し、設定年齢にも幅を持たせたこともあり、売り上げが従来の5 ~6倍にも達した。
この頃には競合他社も現れ、世間ではよりリアルなドールが流行となっていた。ユーザーからはソフビ化で好評であったモデルのリアルドール化の要望が強くなっていた。この「リアル化の要望」とは、造形もであるが、軟質プラであるソフビよりも人間の肌に近い素材、すなわちシリコン化への要望である。色や耐久性の追求など、開発には相当な苦労があったとのこと。そして2001年にはシリコン製のドールを発売することとなったが、全身シリコン製の製品は、ここで販売価格が56万円にまで跳ね上がることになる。
オリエント工業は当然ながらこの価格帯では量販は見込めないであろうとの予測から、当初は初回50体の受注生産を行う予定であった。だが受注開始から数十分後には100件以上の注文が入り、新規受注をしばらく停止するという処置をとるほどのユーザーの大きな期待を集めたのである。
製品である人形をショールームへ搬入する際、あまりのリアルさに死体と間違われ、警察に踏み込まれたこともあるそうだ。筆者がショールームに一歩足を踏み入れたとき、明るい室内で精巧な「人形(ひとがた)が身じろぎもせず「居つづけている」ことに、正直なところ躊躇というか、当初は多少の不気味さを覚えた。まさに「不気味の谷」現象だ。
「不気味の谷」とは、1970年にロボット工学者の森政弘が提唱した概念である。これは「人間のロボットに対する感情的反応について、ロボットがその外観や動作において、より人間らしく作られるようになるにつれ、より好感的、共感的になっていくが、ある時点で突然強い嫌悪感に変わると予想した」ものである。
そして、ロボットが人間の外観や動作と見分けがつかなくなると、再びより強い好感に転じ、人間と同じような親近感を覚えるようになると考えたのである。
森氏は、外見と動作が「人間にきわめて近い」ロボットと「人間と全く同じ」ロボットは、見る者の感情的反応に差がでるだろうと予想した。そして感情的反応の差をグラフ化した際に現れる強い嫌悪感を表す「谷」の線形を「不気味の谷」と呼んだのである。
オリエント工業のドールたちも、そのリアルさゆえにユーザーは不気味の谷を渡ることになると思うが、谷を越えた向こうにあるものは、間違いなく幸福感であるだろう。
最後に、彼女たちの逸話を話しておきたい。
様々な理由で彼女たちと暮らせなくなった際には、オリエント工業に送り返すことで、「里帰り」として引き取り処分と人形供養を行ってくれる。
里帰りしてきたある彼女には手紙が添えられていた。そこには丁寧な文字で、購入したユーザーが、彼女との暮らしが如何に楽しかったか、どれだけ人生を充実させてくれたか、そしてやむを得ない事情で「里帰り」させることがどれほど辛かったかが、感謝の言葉とともに綴られていた。着飾った彼女の全身はきれいに清められていて、その表情は工場出荷時の仕様とは異なり、どこか寂しそうな、でも幸せそうな顔をしていたとのことだ。
別の里帰りの例では、箱の中に乱暴に折り曲げて入れられていた彼女の身体は、あちこちが裂けて汚れ、全身の骨格はゆがみ、本当に死体にしか見えなかったとのこと。その表情は怒気を含んだ般若のようになっていたそうである。
もちろん、そのような表情の仕様は、製品には、無い。
(依藤 慎司)
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